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災害勃発時の「初動態勢」のあり方-卸売市場と自衛隊の活用-

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はじめまして、このコーナーを担当する藤島廣二と申します。

みんなの農業のウェブサイト(特設ページ)にて、自己紹介と仕事内容を掲載してます。

 

 

2011年3月の東日本大震災の時、

被災地において避難者への救援物資の到達が遅れただけでなく、

東京等の周辺地域においても「物不足」「買い占め」などの大きな混乱が発生した。

 

国(政府)は「物は十分にある」と口では言ったものの、

その「十分」を人々に具体的なかたちで早期に示すことができなかったからである。

 

最近も地震・津波、火山の噴火、台風・洪水といった

自然災害が頻発していることを考えると、

再び、同様なことが起きかねないのではないかと危惧される。

 

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そこで以下において、人間にとって最も重要な食料配給の視点から、

東日本大震災時の問題点を当時の新聞記事等を基に検証するとともに、

今後、そうした問題が二度と起きないようにするための方法を提示したい

(長文ですが、ご一読いただき、災害時の支援活動等に関する読者のお考え、

あるいは今回の私の検証・提案に関するご意見等をいただけると、誠に幸甚です)。

 

遅れた国の支援

2011年4月12日付の読売新聞によれば、

地震発生2日後の3月13日、岩手県大槌町内の避難所では1日の食料が「おにぎり1個」、

がれきの中から食料を探したり、

埋もれた自販機を壊して飲料水を確保する被災者もいた、と言う。

 

もちろん、すべての避難所がこのような状態であったわけではない。

しかし、震災当日の11日中に国から食料支援を受けた避難者は

皆無に近かったのではなかろうか。

 

なぜ、このようなことが言えるかというと、

“震災後”に国が食品メーカーに食料の提供を要請しているからである。

しかも、16日午前7時までに配布した食料は累計で176万食

(日本農業新聞・3月18日)。

 

大きな数字ではあるが、

避難者数がピーク時に50万人近くに達していたことを考えると、1日分強にとどまる。

 

国の初動対応の遅れにさらに拍車をかけたのが、情報と人(運転手等)の不足である。

どのルートでどこに運ぶかの情報がなければ、

トラックを目的地に向けて走らせることができないし、

さらに燃料(ガソリン等)の入手が困難で、

電車の不通等のため運転手が集まらないとなると、トラックを動かすことさえできない。

 

ただ、幸いなことに、12日には山崎製パンが、13日にはローソン等が食料支援を開始し、

被災地でもボランティア活動が始まるなど、民間の動きが極めて速かった。

海外の救援隊も13日には第一陣が到着した。

が、いずれにしても、国の初動が遅れたことは否めない。

 

震災時の支援、特に食料支援が被災者の安心感につながることを考えると、1日後では遅い。

1日後、2日後には民間等の支援も始まる。

国に強く求められるのは即座の対応と言える。

 

滞留する救援物資

大量の救援物資が集まるようになった後も、

物資集積所等から避難所や自宅避難者に必要な物資が届かない状態が生じた

(日本経済新聞3月22日、日本農業新聞・3月25日、等)。

 

国のマニュアルでは、支援物資の集積所への輸送は国が担い、

避難所等へは県と市町村が届けることになっていたため、

県等の集積所に物資が滞留したのである。

 

これは燃料(ガソリン等)不足等によって

輸送が思うに任せられなかったことも一因であるが、それだけではない。

 

国の職員も同じであろうが、

県や市町村の職員だからとて物流のノウハウを持っているわけではない。

 

日本通運盛岡支店の話では、震災の直後、

物資を床に置いたままの仕分け作業で非効率だったため、

日通が入ってからはフォークリフトを使いやすいように荷物をパレットの上に置き、

さらに現場リーダーを軸にした体制を組むことで、

作業効率は著しく改善したと言う

(読売新聞・4月12日)。

 

やはり「餅は餅屋」なのである。

なお、仮に市町村職員が物流ノウハウを有していたとしても、

災害時に彼らがやらねばならないことは、物資の配給以外にもたくさんある。

様々な証明書等(出生証明書、死亡証明書、戸籍抄本、埋葬許可証、等)の発行は

もちろんのこと、人々の安否の確認と被害状況調査、避難所の確保、

仮設住宅の設置、中央への要請・連絡、等々である。

 

これだけでも人手不足に陥りかねないのである。

いずれにしても、災害の規模が大きければ大きいほど、

それゆえ救援物資が多く集まれば集まるほど、

その配給を県や市町村に依存するのは無理である。

諸々の業務を市町村役場に集中させればさせるほど、混乱の度が増すだけと言わざるを得ない。

 

「物不足」と「買いだめ」

混乱は被災地だけではなかった。

比較的離れた周辺地域である東京でもひどかった。

震災当日、通常の4~8倍もの時間がかかったと言う交通渋滞、驚くほど多くの帰宅難民の出現。

翌日からはガソリンスタンドで2時間待ち、3時間待ちと言う車の列、

開店前のスーパーに並ぶ長蛇の列、等々。

 

特に食料については「物不足」が目立った。

確かに牛乳や納豆のように関連施設の被災によって、生産量が減少したものもある。

しかし、ギョウザ、漬物、モヤシ等、震災後に生産量を増やした品目も少なくないし

(日本経済新聞・3月24日)

 

米のようにもともと供給過剰と言える品目もある。

その米でさえ、一時的とは言え品切れになるほどの「物不足」であった。

 

その要因の一つは、燃料不足等によってスーパー等への配送が遅れたり、

配送回数が減少したこと。

 

もうひとつは、国家備蓄と民間在庫の合計で数百万トンにものぼる米を、

国が大量に出回るように仕向けられなかったこと。

これらが災害直後の不安心理に起因する「買いだめ」行動と重なって、

東京等の周辺地域でも「物不足」を引き起こしたと言える。

 

しかも、いったん「物不足」となると、さらに不安心理を掻き立て、

買いだめを助長すると言う悪循環も広い地域で認められた。

 

ちなみに、ガソリン・パニックも国の小出し対策に起因するとみられる。

国と民間の合計で200日の備蓄があるにもかかわらず、

14日に放出したのはたったの3日分、ようやく21日になって22日分、

これでどうにか落ち着き始めたと言う

(日本経済新聞・3月29日)。

 

ガソリン(燃料)もそうだが、

主食の米は震災直後に可能な限り大量に出回るようにすべきであったろう。

そうすれば、人々の不安心理が抑えられ、

「買いだめ」や「物不足」もあれほどひどくならなかったと思われる。

 

集中ではなく分散

以上の検証から明らかなように、

災害時に被災地や周辺地域での混乱を極力回避するために最も重視すべき点は、

迅速な初動対応とその際の円滑な物流である。

 

特に周辺地域までを含めた範囲における

最初の1~2日分の物資の潤沢な供給は極めて重要と言える。

そうしたスピーディな対応を実行するためには、施設、人、物資はもちろんのこと、

権限に関しても集中ではなく分散こそが必要であろう。

 

確かに、被災地に国民が一丸となって効率的な支援を行うには、

全体を見渡すことができる司令塔(政府)の存在が欠かせない。

特に海外からの救援隊が到着するころや、

遠隔地から大量の救援物資が送られてくるころには、

全体を見渡して的確な指示を下すことができる司令塔は不可欠である。

しかし、そうした権限の集中は「速さ(スピード)」の点で大きな問題がある。

要請がトップに上がるまでに何段階かを経過しなければならないし、

命令を下すにも何段階かを経る必要がある。

しかも、司令塔とは言え、必要な情報が入らない限り、命令するための決断さえできない。

 

これに対し、「速さ(スピード)」となると、近さが最も肝要である。

物資の輸送距離が短いと言うだけではない。

被害状況等の現地の情報についても、

電話・携帯電話やインターネット等が利用できずとも、

人づてで得ることができるし、自転車や車で回って必要な情報を得ることもできる。

それゆえ、即座の対応が可能である。

 

この意味で、災害直後における「迅速な初動対応」の要は、

「集中」ではなく「分散」にあると言える。

 

もちろん、救援物資の保管の点でも、

集中よりも分散の方が災害に強いことは指摘するまでもない。

 

卸売市場と自衛隊

この「分散」に最も適合している組織として、卸売市場と自衛隊が挙げらる。

卸売市場は現在、中央卸売市場と地方卸売市場を合わせると、

全国に約1,200カ所(公設・三セク卸売市場だけでも200カ所超)存在し、

各卸売市場ごとに普段の取引を通して地元との結びつきが強い。

 

しかも、日々の必需品である生鮮品(冷凍品等の加工品も)

を大量に保管している可能性も高く、

それを緊急救援物資として直ちに放出することも可能である。

もちろん、毎日大量に荷を取り扱うことで、

先の日本通運と同様に高度な物流ノウハウを有しているのはもとより、

地元の小売店等を網羅した配送網も有しているなど、

救援物資等を迅速に処理する能力も高い。

 

実際、東日本大震災時にも福島県の相馬総合地方卸売市場等、

救援物資の配送に大いに寄与した卸売市場が少なくない

(農経新聞・4.11)。

 

一方、自衛隊は営舎施設が148カ所と、

卸売市場ほどではないものの、全国にあまねく存在している。

また、「兵站」という言葉から自明のように、

自衛隊・軍隊は卸売市場と同様、物流(保管、輸送等)のプロである。

 

 

各基地の広い敷地を利用して米や燃料(ガソリン等)を

訓練の一環として保管してもらえるならば、災害直後の緊急放出も可能になろう。

しかも、米の場合、保管品の取り替え時に割引で自衛隊に購入してもらえるならば、

さほど大きな費用は必要としない。

 

例えば、保管数量を120日分とし、1人1日当たり200gで、

自衛官23万人に相当する米を保管すると、合計で5,520t(8,280万食分)、

1kg300円であれば16億5,600万円、

これを3ヵ月ごとに2割引で購入してもらうことにすると、実質コストは3億3,120万円。

 

すなわち、1ヶ月でわずか1億1千万円ほどで済む。

自衛隊が保管する緊急米の供給は、被災地であれば自衛隊が直接に行っても良いし、

卸売市場や米卸経由でも良い。

 

周辺地域であれば、卸売市場や米卸に任せればよい。

いずれにしても、地域ごとに卸売市場と自衛隊を活用できるならば、

副食と主食の両方を早急に供給できる可能性が高い。

 

必要な規則の制定と訓練

ただし、上述のようなかたちで震災等の自然災害の直後に卸売市場と

自衛隊を活用するには、現在の法制度の下では困難が多い。

と言うのは、当然のこととして、彼らの活動は常に厳しく規制されているからである。

 

特に自衛隊の場合、

自衛隊が基地単位等で独自の判断に基づいて活動するのは不可能であろう。

それゆえ、中央からの指示がなくても、

県知事等の要請に応じて即座に活動できる範囲をあらかじめ定めておくことが、

災害時の「初動態勢」を万全にする上でとりわけ肝要であろう。

 

また、卸売市場の場合も、取扱品目の中に委託物品が少なくない。

それは卸売市場(開設者、卸売業者、仲卸売業者)が自由に処理できない荷物である。

それゆえ、そうした荷物の、緊急時における処理の権限等を、

卸売市場に付与することも必要である

(処理された荷の出荷者へは後日、適正な金額が代金として支払われることは言うまでもない)。

 

もちろん、法制度が整いさえすれば、すべてうまくいくわけではない。

災害が発生した時に想定どおりに対応するためには、やはり日頃の訓練が重要である。

自衛隊員はもちろんであるが、卸売市場で取引に従事している人々

(卸売業者、仲卸売業者、小売業者、等)も、

そのほとんどは人の手助けになることを「意気に感じる」人々である。

 

それゆえ、訓練に喜んで参加することは間違いない。

要はそうした訓練に国がどれだけの時間と費用を割けるかだけであろう。

ちなみに、3月11日の地震発生は14時46分であったが、

岩手県知事が陸上自衛隊に災害派遣を要請したのは、わずか6分後の14時52分であった

(日本経済新聞・4.8)。

 

この迅速さは、法制度の改正等によって卸売市場と自衛隊の活躍の場を拡大することで、

災害時の初動態勢を大いに強化できることを示唆するものであろう。

 

 

本稿は『月刊 農林リサーチ』第36巻第5号(2011年5月)

掲載の藤島廣二「もっと卸売市場と自衛隊の活用を」を加筆修正したものである。

 

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